ヘンリー・フォード氏と言えば、フォード・モーターを設立し、それまで富裕層の乗り物であった車を、大衆の乗り物に替えた人物ですが、あるハーバードの教授によれば、彼はマーケティングの天才だったと評価されています。
今回は、彼がマーケティングの天才と呼ばれる所以と彼の製品・サービスの値段を決める方法を紹介したいと思います。
ヘンリー・フォードの生産システム
ヘンリー・フォード氏は、自動車の生産システムを大きく変えました。
従来の自動車の生産は、熟練工がひとりで様々な作業を行っていたため、大変手間がかかり効率の悪いものでした。
そこで、フォード・モーターでは、「作業の標準化・マニュアル化」と「徹底した分業化」を行いました。
それにより、従来は熟練工がひとりで担っていた作業を、何十もの単純(マニュアルに従い、誰でもできる)作業に分割したうえ、ベルトコンベヤで各作業を分業する体制に変更しました。
また、作業の標準化に加え、部品も簡素化・規格化され、自動車の品質にバラつきが生じないようにしました。
この生産システムにより、効率的(1台あたりの生産コストを低くしたうえ)に、大量かつ品質の高い自動車を生産できるようになったのです。
ヘンリー・フォードは、生産の天才でなく、マーケティングの天才
上記のような生産システムを構築することに成功したため、ヘンリー・フォード氏は、しばしば生産の天才と称されますが、あるハーバード大学の教授(セオドア氏)によるとこれは適切でないとのこと。
「フォードの生産システムにより、コストが下がり販売価格が下がり、多くの車が売れた」と一般的には言われています。
しかし事実は、「1台の車の販売価格がこの値段になれば、多くの車が売れると考えたので、その販売価格を可能とする生産システムを開発した」にすぎないのです。
「上記の生産システムは、原因(手段)でなく、結果(目的)である」と解するほうが正しいと、ハーバード大学教授は分析しています。
ヘンリー・フォード氏の本当の才能はマーケティングにあり、上記システムはマーケティングから生み出されたものなのです。
実は、ヘンリー・フォード氏がその経営哲学を述べた以下の内容からも、彼がマーケティングを重視していたことが分かります。
「当社のポリシーは、価格を引き下げ、事業を拡大し、製品を改良することである。価格の引き下げを第一に挙げたことに注意して欲しい。
当社は、コストが固定的だと考えたことはない。だから、さらに売上が増えると確信するところまで、まず価格を引き下げる。その後で、その価格で経営が成り立つよう懸命に努力している。当社はコストで頭を痛めることはない。新しい価格が決められると、それにつられてコストを引き下げるからである。
コストを積み上げて価格を決めるという方法は、狭い意味では科学的かもしないが、広い意味では科学的ではない。なぜなら、いくらコストを詳細に計算しても、それに基づいた価格で製品が売れないとしたら、そのコスト計算は何の役にも立たないからである。コスト計算は誰でもするし、当社ももちろん詳細に計算している。重要なことは、コストがどうあるべきかは誰にもわかないという事実なのだ
それを発見する一つの方法は、まず価格を低いところに決め、その価格で経営が成り立つよう、全員が最も効率よく働かざるをえないようにすることだ。このように追い込まれた状況の中で、製造方法や販売方法について発見を重ねていくのであり、時間をかけてゆっくりと調査研究した結果ではない。」
まとめ(値段を決める発想法)
ヘンリー・フォード氏は、我々が製品の値段を決める際に大変役立つ発想を与えてくれています。
ついつい以下の発想で値段を考えてしまいがちです。
販売価格=製品・サービスを提供するコストを考え、その「コスト+利益」
しかし、ヘンリー・フォード氏によると上記発想は、広い意味で科学的でなく、本来以下のように考えるべきだと主張しています。
販売価格=製品・サービスが顧客に受け入れられる値段
(その値段で販売できるようにコストを下げる方法を生み出す)
いかがでしたか、マーケティングを行い、サービスや製品の値段を決める際はぜひ上述の発想で試してみて下さい。